6/30 シュテリゼー オーバーロートホルン

明け方にかけて恐ろしく冷え込み、3季用の厚めのシュラフを持ってきたが中で震えてしまうほどだった。朝5:00、気温は低く空気は強烈に澄んでいる。ヨーロッパに来て最高の天気になった。モルゲンロートのマッターホルンが素晴らしい。おじさんと一緒に見晴らしのいい所に行く。彼は今日サンモリッツへ移動するという。こんな朝っぱらから町を歩いているのは日本人だけだ。ヨーロッパ人は優雅に遅い時間から行動を開始する。日本人とすれ違う時おじさんが言う。「あのやろう、オレに挨拶しねーよ」 なんだか笑ってしまう。今日はこのおじさんの意見も容れてトーフテンを経由してスネガまで歩いて行こうと思う。その後は予定通りシュテリゼーだ。おじさんとはここでお別れだった。樹林帯の山道を2時間ほど急登する。結構きつい。途中外国人の女性を1人追い越した。視界の開けたところにネズミ返しの家が数件建っており、Tufteren トーフテンというのは読み方の間違えでトゥフテルンという村だった。おじさん曰くこの村がいいそうだがボクはこういう感じはさほど興味は湧かない。彼はアルプスの景色を沢山見すぎて飽きてしまっているのだろうか。ボクとは感覚が違うのかもしれない。ボクはやはり大きな氷河や切り立った岩山に魅力を感じる。「モンタンヴェールなんてガキの見る景色だ」 と言っていたがボクは感動した。スネガ2288mから日本人団体に混じってゴンドラリフトでブラウヘルト2571mまで登り、再び歩いてシュテリゼー2537mに着く。

小さな湖の向こう岸で先程の日本人団体が何事かしきりに写真を撮っている。後ろを振り返ると、「あ〜っ!!」 あまりの素晴らしさにしばしぼう然と立ちすくむ。


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逆さ剱岳、逆さ富士、逆さ白馬三山などいくつか逆さと名のつくものがあるが、いずれもまだ見たことがない。これこそ初めての “逆さ〜〜” だった。これほど美しいとは想像していなかった。しかし何という粋な演出だろうか。マッターホルンは2日間の悪天候で化粧直しをしていたのだ。山は雪だったのだ。且つ “逆さ” をともなって再度お披露目だ。思わず泣けてくるではないか。ボクはすっかり満足しきって抜け殻化してしまった。
フルーエヒュッテでトイレを済ませ、抜け殻から立ち直りフィンデルン氷河の末端を見に行く。しかしここは地球温暖化による痛々しい光景が見られた。1985年以来ヨーロッパ・アルプスの氷河は22%消失したと言われている。2003年にはインスブルックで40度の猛暑を記録し、このままいくと今世紀末にはアルプスの氷河は全滅すると言う。ボクなどは短絡的に考える。10年位の期間をみて強制的に世界中のクルマを電気式に変えるとか、各企業、家庭にソーラーシステムの導入を義務づけるとか、日本なら割箸禁止とか措置をとってしまえばいい等と考えてしまう。先ず先進国が行動を起こし、途上国の環境破壊にも歯止めをかけていくしかないのではなかろうか・・
シュテリゼー界隈へ行くという大雑把な予定しか立てていなかった。天気快晴。ガイドブックを見ながら考える。とにかく上へ登ってみようと思う。ロープウェイ駅とオーバーロートホルンのコルまで来た。ここでまた考える。オーバーロートホルン山頂を目指すことにした。このコルが2981m。3100mあたりから高山病の症状が現れ、やたらのどが渇くようになり息が切れる。3200〜300mのところで上から日本人が下りてきた。あともう少しだと言う。頂上直下に雪渓があるとも教えてくれた。「息が切れるでしょう、ゆっくり行って下さい」 他に人は誰もいない。5歩あるいては休む、この繰り返しだ。日本アルプスだと麓から2500〜600mまで登り一泊するので、翌日3000mまで登っても体は慣れているので大丈夫だ。しかし今日は麓から一気に来てしまったのでこたえる。朝から何も食べていないのと、寝不足も高山病への抵抗力を弱めているようだった。正午近くになり睡魔にも襲われる。しばらく立ち止まり引き返すか考えるが再び歩き出す。雪渓に出た。傾斜はあるが大きな足跡がついていて運動靴でも何とかなりそうだ。雪渓を登りきってついに3415mの山頂に達した。さえぎるもの一切なし! 正午をまわっていたがずっと快晴のままだ。今まで経験したことのないまぶしさだった。サングラスをはずすと1,2分と目を明けていられない。ここがヴァリスのヘソだと思った。ヴァイスホルンやドームがぐっと近くなり、モンテ・ローザ、リスカム、ブライトホルン、マッターホルン、オーバー・ガーベルホルン、チナールロートホルン等、ぐるーっと、4500m級の、キラ星のような名峰達に囲まれている。絶景を見ているうちに高山病はふっ飛んでしまった。空腹も忘れてしまった。
ヴァイスホルン4506m マッター谷
左からドーム4545m テーシュホルン4491m アルプヒューベル4206m (左)モンテ・ローザ4634m (右)リスカム4527m
左からカスト−ル4226m ポリュックス4091mブライトホルン4165m クライン・マッターホルン3884m  マッターホルン4478m
左からダン・ブランシュ4357m オーバー・ガーベルホルン4063m チナールロートホルン4221m  
とっくの昔にスタミナは切れていたので下りも大変だった。フルーエヒュッテに着いた時は14:00をまわっていた。ここで思いきりエネルギーを補給してスネガまで歩き (天国のような草原の道)、地下ケーブルでツェルマットへ下りて行った。今日は歩いて1546m登り1100m下った計算になる。有難い事にこれだけ歩いても膝は痛まなかった。きのうツェルマットの駅で不愉快な思いをしたことなどすっかり忘れていた。大勢の日本人を見ても気にならなくなっていた。テント場へ帰ると人の入れかわりがかなりあって、例のおじさんはサンモリッツへ行き、九州に住んでいる70代の物腰やわらかな男性がやって来た。数年前の夏北アルプスへ行ったが山小屋の混雑に嫌気がさし、九州からだとお金もかかるのでいっそ本場のアルプスへ、というのが最初の動機だったと言う。ボクは70代でそれだけの体力を保っている自信はとてもなく、その年齢で1人でテント泊とは本当に頑張るなぁと思う。今日はテントで12泊目、最後の晩だ。ここ2〜3日、天幕火災に最も気をつけていた。夕立はやってこなかった。ツェル・アム・ゼーの最後の日と今日以外は毎日夕立があった。

 

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