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H24年正月 南ア 北岳 H23年9/23、小田急線が台風15号のため成城学園前で止まり、嵐の中4時間かけて新ユリの自宅まで歩くことになった。多摩川の橋を渡るのは怖かったが、強風の中激しい濁流を見ているとなにやら冬の山が恋しくなってきた。あの天国と地獄がセットになったような冬の北岳へダメ元でチャレンジしてみたくなってきた。 アイゼンとピッケルをヤスリで砥ぎ、山岳保険に入りケータイをソフトバンクから山間部に強いドコモに変える。冬山に必要な体力を作るため高尾山〜小仏峠、別の日に景信山を2往復、また別の日に3往復、少々恥ずかしかったが家の近くの標高差25mの丘を重いザックを背負って20往復した。この時年配の女性から荷物は何キロくらいですかと聞かれ、こういう聞き方をするのは山好きだろうと思いあれこれ話したのは楽しかった。岩登りの練習もやった。 結果的に北岳には登れなかった。敗因は第一に体力不足。次にテントでの冬山生活力不足。夏山ならこれだけ鍛えれば大抵のところは登れるが冬の南アでは全然足りなかった。夏山と違う野営技術も必要で時間のロスが大きく出発がだいぶ遅れたのも響いた。 1/2 夜叉神峠登山口 〜 池山御池小屋 前日にバスで甲府へ行きマン喫で一夜を明かす。翌朝寝坊して5:00に起きたがこれが敗退の第一歩だった。一旦甲府駅に戻れば誰かしらいてタクシー相乗り出来ると思っていたが誰もおらず単なる時間とお金のロスになった。 夜叉神を出発したときはかれこれ8:00頃になっていた。トンネルのシャッターに付いているドアを開け中へ入るとムッと暖かかった。千と千尋の神隠しを思わせるトンネルを上からボタボタ落ちる水を避けながら歩き、いよいよ人間界から魔界へと突入する。トンネルを出てしばらく林道を歩き10:00頃鷲ノ住山展望台に着いた。白峰の稜線は雲がかかっている。広河原〜大樺沢ルートは冬は雪崩の危険があり使えない。鷲ノ住山1534mまであまりマトモでない道を84m登り、風が強いのでヤッケを着て、野呂川へ400m急下降して吊橋を渡る。すぐ暑くなったのでヤッケを脱ぐ。こういう着たり脱いだりの時間のロスが馬鹿にならなかった。前々日から風邪で鼻をかむのにも時間を費やす。南アルプス公園線への登りは岩場、ザラついた急斜面で帰りここを歩くのは嫌だなァと思うくらいいやらしかった。発電所の拡声器が人気の全くない谷に向かって何か喋っていて、一般車両通行止めの林道を無表情な作業員を乗せた車が一台走り抜ける。ウルトラセブンのある場面を思い出す不気味な雰囲気だった。 歩き沢橋から池山小屋への道は初め落ち葉を敷き詰めたゆるい登りで途中から滑りやすい急登に変わる。途中ルートを外して身の危険を感じる不安定な斜面に迷い込み、何とか這いつくばって無事登山道に戻る。時間のロスが大きくココロが折れそうになる。ぼちぼち積雪が出てきた。乾いた小さな豆つぶみたいな奇妙な雪だった。冬型初日の今日は不安定な小雪の舞う天気で、うっすら積もった雪は滑りやすくストックからピッケルに持ち替える。上から一人下りて来た。八本歯の下りはしっかりしたフィックスロープが付いていて、雪は少なく夏道通り行けるから大丈夫との事。むしろ奈良田のゲートがとても越えられそうもなかったので車で夜叉神から入り直したとの事。僕は鷲ノ住山越えはもう嫌だったのでこの話には暗澹とさせられた。この人は薄く積もった雪に何度も滑りそうになったそうでアイゼンを履いていた。冬山装備を背負っての義盛新道の登りは大変辛く、出来れば城峰かその上の幕営適地まで登っておきたかったが全然無理な話で、ヘッドランプを点けて18:00頃ようやく池山御池2060mに着いた。小屋を見つけるのに少し時間かかった。中に単独行のテントが2張りあった。疲れ果てて設営、水作り、食事とえらい時間を食い両隣の住人に迷惑をかけてしまった。 1/3 池山御池小屋 〜 北岳(予定) 〜 池山御池小屋 2:00頃目が覚めごそごそと準備を始める。両手のほぼ全部の爪と肉の間があかぎれでモノに触れるとひどく痛み作業は全くはかどらない。しかし気を付けなければいけなかったのはむしろ鈍い痛みを発している右足の親指の凍傷の方だった。寒さで体中の機能が満足に働かずモノをさがすのにえらい時間を食う。ザックのバックル等も固くなっていて操作に手間どる。さらに不吉な出来事としてスパッツのゴムが切れ、交換の作業に手間どり出発は6:30頃になってしまった。 今日はもし行けたら北岳ピストンの予定だがすでにココロは折れかけていた。城峰の手前あたりから積雪が増えてきた。ボーコン沢ノ頭までの所要時間を3時間と勘違いしていて中々着かないことに焦りと疲労を感じていた。森林限界を越えボーコン沢ノ頭2830mに11:00頃到着。冬型2日目の今日は日本付近の等圧線がゆるいようで絶好の天気になった。展望は言うまでもなく文句なし。北岳の天気は意外と不安定で甲府盆地から見ると、富士山や金峰山は良く晴れていても北岳には雲が絡まりついていることが多い。その雲の中で雪が舞っていることが多く、夏遅くまで大樺沢に雪渓が残る。ザックを降ろして写真を撮るが、メモリーカードの原因不明のトラブルで本来の2割程度しか記録出来なかった。不用意に置いたザックが風で飛ばされそうになった。不吉なことが続く。ここから北岳を往復して池山御池小屋まで無雪期で約6時間。迷っている状態で吊尾根を進む。ゴーグルが曇る。今回はマイナス思考が行け行けと囁く。「天気はいい。こんなチャンスは2度とないぞ。帰りはヘッドランプ点けて歩けばいい。どうせオマエは天涯孤独な人間なのだ。憧れの北岳で遭難して死んでも本望じゃないか」 とグダグダ長ったらしく囁くのはマイナス思考の方だ。一瞬日が陰り北岳の表情がサッと曇る。「来るな」 と話しかけられているような気がした。トレースを外すと膝まで潜る積雪だった。 |
![]() 間ノ岳3189m |
八本歯ノ頭2920mからヤセ尾根を下る。頂上まであと1時間強。核心部のフィックスロープの掛かっている雪壁を2mほど下るがオーバー手袋のグリップが悪く、「ここまで!」
と今回初めてプラス思考が囁いた。簡潔に一言で片付けるのは間違いなくプラス思考の方だ。と同時に自分を待っている人の顔が浮かんだ。天涯孤独と言うのは嘘だ。不安定な体勢から八本歯ノ頭まで登り返し退却を決意。
途中不要な写真を削除して撮れるだけ撮る。北岳バットレスはたっぷり雪を付けていて、中央陵にたどり着くまでどこもかしこも雪崩そうな斜面ばかりで、あそこを登るのは自殺行為にしか思えなかった。ボーコンに着くころ後ろから一人追い越してきた。「夜叉神からバスはないでしょう。良かったら私の車でどうぞ」 と言ってくれたがその人のペースに合わせて行く自信はなかった。日が陰り風が吹くと猛烈寒く手足の指が凍りつきそうだ。ボーコン沢の頭付近は風で雪が飛ばされ、ガスや暗くなった時は迷いやすいだろう。城峰で先程会った人が幕営していた。池山御池まで大変疲れる下りで小屋に着いたのは18:00頃だったと思う。あたりはすっかり暗くなっていて小屋には誰もいなかった。疲労困憊で昨日以上に食事の準備に時間かかった。昨日より積雪が少なく雪を溶かして作る水は一度バンダナでこさないと枯葉の破れかすなど目立った。 |
![]() 八本歯ノ頭より北岳 |
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1/4 池山御池小屋 〜 夜叉神峠登山口 寝坊して起床は7:00頃。出発は11:00過ぎ。昨日会った人が下りてきたが、「すいません、寝坊しました。どうぞ先行って下さい」 となった。冬型3日目の今日は雪。義盛新道は登りよりむしろ下りの方が楽でストックはしっかり2本使った。野呂川吊橋への下りも意外と大丈夫だったが鷲ノ住山への登りは相当こたえた。林道に出る手前で暗くなりヘッドランプを出す。雪が降っていたがまとまった積雪はなく水の確保が出来るか心配になる。千と千尋のトンネル内に落下した氷柱がころがっていたがこれを溶かすには燃料を食いそうだ。トンネルの中程で上から落ちてくる水は石灰臭そうで飲むには抵抗ある。出口でザックを降ろす。19:00頃だったと思う。 トンネルを出て甲府盆地の夜景を見て感動してしまった。人間界に戻って来たのだ。登山口に来てさらに感動した。じ、自動販売機だぁ〜! 自販機の存在がこれほど嬉しいとは・・ 早速お金を入れようとするがあかぎれの手が自由に動かず小銭を下に落としてしまう。何とか拾ってやっとの思いで入れたが全て品切れのランプ。マジかよ!
落ち着いてやり直すと今度はうまくいって缶コーヒーとスープを一気に飲み干す(≧≦)\(^_^「*_*)o-_-)=○☆ 水も買えたので今夜は雪を溶かすあのうっとーしー作業をしなくて済むのだ。 1/5 夜叉神峠登山口 〜 芦安 早朝ドアがガチャッと開いて 「わっ!びっくりした!」 と言って人が入って来た。登山者だろう。そりゃびっくりするでしょう。ワタシは人間界と魔界の境目でピッケル、アイゼン等刃物を散乱させテントで寝ていたのだから。トンネル内の幕営は暖かく快適でまた寝坊してしまった。車で今から下りる人はいなかった。あと2、3日早ければ状況は違っていただろう。 芦安まで歩いて行く。この時点では冬の北岳はもう懲り懲りだと思っていた。しばらく引き返したことを後悔していた。終日晴れで風がさほどない日などひと冬で幾日あるのだろうか? 無理しても行っておくべきではなかったか? あと1時間ちょい頑張れば頂上だったのだ。そしてこの一回の山行で終わらせてしまえば良かった・・ と。しかしネットの書き込みを見ると暗くなってから池山吊尾根を下るのは迷いやすく危険で、体力も限界だったのでアイゼンでつまずく可能性も大きくなる。骨折、捻挫で歩けなくなったらそれでもう遭難だ。気温も下がり手足の指も辛くなっていただろう。しかしまあとにかく今までの冬の最高地点を更新(2920m)出来た訳だし、今回はいろいろやることが裏目に出たが問題点を一つ一つクリアしていっていつの日か頂上に立てたとき、今までで最高の感激になるだろう。 |